花の窟神社例大祭 お綱掛け神事徹底レポート【2024年版】
更新日期:
熊野市
日本最古の神社が熊野にあり。
熊野市の花の窟神社は日本最古の神社として知られています。世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部として登録されていて、一度足を踏み入れれば、荘厳な雰囲気と自然の神秘に包みこまれます。
本記事では花の窟神社の例大祭「お綱掛け神事」を徹底レポートしていきます。お綱を通して神様と繋がる、そんな体験をしてみませんか?
お綱掛け神事に参加・見学する前に押さえたい予備知識
(道の駅 熊野·花の窟の「伊弉冊尊(イザナミノミコト)」那智黒成形象)
毎年、2月2日と10月2日に行われる花の窟神社例大祭「お綱掛け神事」では一般客の見学や一部参加が可能です。お綱掛け神事当日の様子をご紹介する前に、知っておくと理解が深まる花の窟神社や神事についての予備知識を確認しておきましょう。
花の窟神社はどんな場所?
日本最古の神社と言われている花の窟は、高さ約45mの巨岩が御神体です。伊弉冊尊(イザナミノミコト)のお墓と言われています。社殿はありません。
日本神話において様々な神様を生んだ伊弉冊尊(イザナミノミコト)は火の神である軻遇突智尊(カグツチノミコト)を産んだ際、体を灼かれて亡くなってしまいました。その後に葬られたのが、花の窟とされています。
日本書紀には以下の記述があります。
「イザナミは火の神を生んだときに体を焼かれてしまい神退去り(死去)なされた。それゆえ、紀伊国の有馬村に葬り奉った。土地の者たちは花の季節には以てお祀りする。また、鼓や笛、幟(のぼり)を用いた歌舞を奉納する」
花の窟神社例大祭 「お綱掛け神事」とは?
”お綱掛け神事は、有馬の氏子が中心となり、およそ10メートルの三旒の幡(みながれのはた)、下部に種々の季節の花々や扇子等を結びつけたものを、日本一長いともいわれる約170メートルの大綱に吊し、大綱の一端を岩窟上45メートル程の高さの御神体に、もう一端を境内南隅の松の御神木にわたす神事です。 参照:花の窟公式WEB「お綱掛け神事」”
稲作が盛んになった時代から農民が五穀豊穣を願って、お綱掛け神事が始まったと言われています。お綱掛け神事は年2回あり、種まきの時期である2月2日に春季例大祭、刈入れの時期である10月2日に秋季例大祭が行われます。
三神を意味する旗縄「三流の幡(みながれのはた)」
(お綱掛け神事直後の三流の幡の様子)
花の窟に掛けられた約10メートルの3つの旗縄は、三流の幡(みながれのはた)と呼び、三神を意味しています。
三神とは
● 太陽の神である天照大神(あまてらすおおみかみ)
● 月の神である月読命(つくよみのみこと)
● 地上界の神である素戔嗚尊(すさのおのみこと)
です。
◯旗縄を飾るようになった理由
”江戸時代後期の郷土誌「紀伊続(しょく)風土記」には、かつて、毎年花の窟の祭りの日に、朝廷から「錦(にしき)の幡」が献上されていたものが、ある年、熊野川の洪水によって流されて以来途絶えてしまい、土地の人がその代わりに縄で編んだ「三流の幡」を飾るようになったと記されています。 参照:花の窟公式WEB「花の窟 錦の御幡献上行列」”
藁を綯えて作る縄を7本束ねた「お綱」
お綱掛け神事のお綱は、地域で育てられたもち米の稲藁が原料となっています。お綱掛け神事では一度に約800束の稲藁を用いて、氏子さんが中心となり縄を綯(な)えます。そうして、7本の縄を束ねて、約170mのお綱を作ります。
(花の窟神社に設置された説明看板)
お綱掛け神事において「7」という数字は、とても重要です。
7本の縄は7つの自然神である風の神、海の神、木の神、草の神、火の神、土の神、水の神を表しています。また、お綱掛け神事では7つの自然神の使いとして、7人の氏子(上り子)が御神体の頂上に登ります。
御縄綯え(おなわなえ)作業の様子
上記の写真は、神事の約10日前の藁を綯って縄を作る様子です。氏子さんやボランティアの方の力で、2日間かけて約170mのお綱を完成させます。
藁を綯う作業は見た目以上に難しく、コツを身につけるまで時間がかかります。縄綯えの場に参加するボランティアさんの中には、毎年、東京から駆けつけている方もいらっしゃいます。
お綱掛け神事は1日にして成らず。多くの時間と人の手を介して、お綱掛け神事の当日があります。
花の窟神社例大祭 お綱掛け神事の様子を徹底レポート
予備知識を確認できたところで、花の窟神社例大祭「お綱掛け神事(2024年10月2日)」の様子を時系列でご紹介していきます。
【お綱掛け神事の当日のタイムスケジュール】
当日のタイムスケジュールは以下の通りです。
- 8時00分 準備
- 8時30分 三流の幡に花をつける
- 10時00分 お綱掛け神事開始
- 10時23分 上り子7人が御神体の頂上部へ
- 10時25分 演武奉納
- 10時40分頃 御神体の頂上部からお綱が下りてくる
- 10時45分 お綱を掛ける
- 11時20分 お綱を巻く
- 11時25分 14個の餅をまかれる
- 11時35分 例大祭
- 11時55分 浦安の舞・豊栄(とよさか)の舞
- 12時10分 玉串奉典
今回はお綱掛け神事の開始時刻より2時間早い午前8時に現地入りしています。その理由は「三流の幡に花をつける様子を見学できるから」です。境内に設置された椅子を確保するためにも、余裕を持って現地に到着することをオススメします。
午前7時50分 駐車場に到着
( 1.花の窟神社駐車場の様子)
当日の駐車場は
の2ヶ所です。事前に場所をチェックしておきましょう。
午前8時 花の窟神社 境内の様子
花の窟神社に到着すると、お綱掛け神事の準備が着々と進められていました。普段とは違った荘厳な雰囲気が広がっています。
花の窟を見上げてみます。これから数時間後には、新しいお綱が掛かります。
お綱は故意に切り落とすことはせず、自然落下を待ちます。このため、花の窟に複数本のお綱が掛かっている時もあります。2024年は台風が少なかったこともあり、複数本のお綱が掛かっていました。大変貴重な光景です。
午前8時30分 三流の幡に花をつける
境内にて氏子さんが中心となって三流の幡に花をつけ始めました。幡の下部分は季節の花がつけられ、10月2日の秋季例大祭には主にケイトウや菊、2月2日の春季例大祭には寒椿がつけられます。
◯花の窟神社の御朱印には「ケイトウ」と「寒椿」が描かれています。
ケイトウや菊以外にも色とりどりの花が飾られます。
タイミングが良ければ、一般の方も花をつけることができます。
午前9時30分 お綱掛け神事開始前 境内の様子
午前10時のお綱掛け神事の開始が近づくと、人が増えてきます。神事の前に花の窟に手を合わせる参拝者の姿が目立ちました。
(五穀豊穣をお祈りするために供えられた品々)
午前10時 お綱掛け神事開始 上り子7人が御神体の頂上部へ(10時23分〜)
お綱掛け神事が始まると、賑わいのあった境内が静寂に包まれます。
7つの自然神の使いである7人の氏子さん(上り子)がお祓いを受けて、
御神体である花の窟の頂上へと登っていきました。
午前10時25分 演武奉納
7人の氏子さんが花の窟の頂上に到着するのは、大体約20分後です。その間、事前に申込みを受け付けた奉納が行われます。
今回は、荒谷流武道の演武が奉納されました。
この時間に行われる奉納は年によって変わり、演武や舞踊、歌の奉納など様々です。
午前10時40分頃 御神体の頂上部からお綱が下りてくる
御神体の頂上に到着した氏子さんの手によって、重しをつけたロープが下りてきます。
境内の氏子さんが重しをつけたロープを受け取り、お綱をくくりつけて合図を送ります。
そうすると、お綱は花の窟の頂上部へと引き上げられていきます。
ゆっくりと引き上げられていくお綱を見上げる参加者たち。三流の幡に飾り付けられた綺麗な花々を目で追いかけました。
午前10時45分 お綱を掛ける
ここからが一般参加が可能な時間です。神様と繋がることができると言われるお綱に触れることができます。
氏子さんの案内のもと、約170mのお綱を持って国道42号を横切り、目の前の七里御浜へと歩んでいきます。
この時だけは国道42号が通行禁止になります。
天候にも恵まれた2024年秋のお綱掛け神事。七里御浜の波音が心地よく鳴り響いています。
花の窟から七里御浜にかけて、お綱を携えた人の列が一直線に並んだ瞬間です。年に2回の貴重な瞬間に魅入ってしまいました。
ここからは、皆で息を合わせてお綱を柱に引っ掛けるまでの様子です。氏子さんの合図に合わせて、一斉に移動します。
こちらがお綱を引っ掛ける柱です。一見、簡単なようですが息を合わせないとうまく引っ掛かりません。
七里御浜に広がる水平線とお綱を携えた参加者の姿。氏子さんの合図待ちです。
旗振り役の氏子さんにも力が入ります。花の窟の頂上には神事を見守る7人の氏子さんの姿が見えます。
3度目の正直、氏子さんの合図で一斉に移動!
見事、お綱を柱に引っ掛けることに成功しました。
午前11時20分 お綱を巻く
お綱は石の柱に左回りに七回半回し、残りを右回しで巻き付けて固定されます。「左回りに七回半回ったが生まれなかった。その後、右回りすると国が生まれた。」とされる日本神話になぞらえています。※花の窟神社に設置された説明看板を参照
花の窟の境内へ戻ると、花々に装飾された三流の幡の姿がありました。天候によって左右されますが、花々はお綱掛け神事から数日間、両端についた扇子は約2週間ほどは目にすることができます。
午前11時25分 14個の餅がまかれる
氏子さんの合図で御神体の頂上にいる7人の氏子さんからそれぞれ2個、計14個のお餅がまかれます。
こちらのお餅は安産、子宝のご利益があると言われています。
午前11時35分 例大祭
餅まきから例大祭が始まります。
宮司さんが祝詞を読み、例大祭が進んでいきます。
午前11時55分 浦安の舞・豊栄(とよさか)の舞
時刻が正午に差し掛かったところで、お綱掛け神事の終盤です。装束を纏った巫女4人が浦安の舞、豊栄(とよさか)の舞を奉納します。
(浦安の舞の様子)
(豊栄(とよさか)の舞の様子)
御神体の前で舞う巫女の姿はとても神秘的で、見学者は皆、息を飲んで舞を見守っていました。
午前12時10分 玉串の奉納
そして、最後に玉串の奉納が行われ、2024年花の窟神社 秋の例大祭「お綱掛け神事」が終わりを迎えます。
お綱掛け神事後に訪れたい関連スポット一覧
お綱掛け神事を見学した後は、花の窟神社と関連するスポットに立ち寄りませんか?
1.道の駅 熊野·花の窟
2.産田神社(うぶたじんじゃ)
3.まないたさま
4.黄泉比良坂(よもつひらさか)
の4つをご紹介します。特に3、4はとてもディープなスポットになりますので、訪れる際はしっかりと下調べや準備をしましょう。
1.道の駅 熊野·花の窟
花の窟神社に隣接する道の駅です。古代米(イザナミ米)を使ったうどんやお団子が楽しめる食堂「お綱茶屋」をはじめ、お土産物を販売するショップ、花の窟にまつわる資料の展示スペースがあります。
お綱掛け神事の後には、お綱茶屋で古代米(イザナミ米)を使ったメニューで一休みされてはいかがでしょう。
●道の駅 熊野·花の窟
住所 | 三重県熊野市有馬町長島137 |
営業時間 | 10:00~16:00(食堂は11:00~14:00) |
定休日 | 年中無休 |
駐車場 | 無料駐車場あり 大型9台・普通車50台 |
公共交通でのアクセス | JR熊野市駅から徒歩で約20分、花の窟神社から徒歩すぐ |
車でのアクセス | 熊野大泊ICから車で約5分 |
2.産田神社(うぶたじんじゃ)
弥生時代から続く産田神社では、伊弉冊尊(いざなみのみこと)と軻遇突智神(カグツチノミコト)が祀られています。花の窟神社が伊弉冊尊のお墓に対して、産田神社は火神である軻遇突智神を産み落としたことで亡くなった場所と云われています。
産田神社の社殿の両側には、「神籬(ひもろぎ)跡」があります。約二千年前、古代の社殿がない時代に神をお迎えし、おもてなしをした場所です。神社の「磐境/いわさか(神の鎮座する区域)であったとされています。産田神社以外では、東北地方に1ヶ所あるのみで大変貴重な遺跡です。
●産田神社(うぶたじんじゃ)
住所 | 三重県熊野市有馬町1814 |
営業時間 | 終日 |
休業日 | なし |
駐車場 | あり(無料) |
公共交通でのアクセス | 花の窟神社から徒歩23分、JR熊野市駅から徒歩40分 |
車でのアクセス | 花の窟神社から車で8分 |
3.まないたさま
「まないたさま」は、真名井戸(まないと)が訛ったとされ、古くこの地に祭られた水神の信仰から生まれたとされています。産田川の水源にあたり、産田神社に関連する古い遺跡といわれています。
「まないたさま」へたどり着くためには、まず池川薬師(三重県熊野市有馬町)を目指します。狭い道路のため小型車推奨です。池川薬師から「まないたさま」へと続く道は山道になりますので山登りの格好や準備をして臨んでください。池川薬師から片道約10分程度で「まないたさま」にたどり着きます。
●まないたさま
住所 | 三重県熊野市有馬町2289 |
備考 | ・花の窟神社から池川薬師まで車で約20分、徒歩約1時間 ・池川薬師堂付近に駐車スペースあり 参考:Google Maps「池川薬師」 |
3.黄泉比良坂(よもつひらさか)
黄泉比良坂とは、黄泉の国と現世の境目にある坂です。日本神話において、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)が伊弉冊尊(いざなみのみこと)を訪ねるため、黄泉の国に向かった場所とされています。
黄泉比良坂の入口は、「ファーマーズマーケット ほほえみかん」から徒歩5分の場所にあります。さらに入口から黄泉比良坂までは徒歩約10分程度です。赤いテープを目印に進んでください。ただし、道は竹藪が生い茂る山道ですので、山登りの格好等の準備をして臨みましょう。
●黄泉比良坂(よもつひらさか)
住所 | 三重県熊野市有馬町1326 |
備考 | ・花の窟神社からファーマーズマーケットほほえみかんまで 車で約5分、徒歩17分 参考:Google Maps「黄泉比良坂 日初様入口」 |
お綱を通して神様と繋がる時間は唯一無二
(お綱掛け神事から5日後の三流の幡の様子)
今回、花の窟神社例大祭 お綱掛け神事の取材を通して、熊野の奥深さの一端に触れられたように思っています。お綱掛け神事が気になっている方はもちろん、熊野の歴史や文化に関心のある方は、ぜひ本記事のレポートをご参考にしてみてください。
世界遺産 花の窟神社の情報まとめ
住所 | 三重県熊野市有馬町130 |
駐車場 | あり(無料) |
公共交通でのアクセス | JR熊野市駅から新宮駅行きバスにて「花の窟バス停」まで約5分 |
車でのアクセス | 熊野大泊ICから車で約5分 |
公式WEBサイト | 世界遺産 花の窟神社 |
(大谷翔平選手もご利益を求めて触れたとされる丸石)
(鳥居の奥には稲荷神社・龍神神社が祀られています。)
(お守りや御朱印は社務所にて)
(ライター:濱地 雄一朗 さん)