サンマ寿司―尾鷲と熊野の違いは?めはり寿司―名前の由来は?東紀州はご当地寿司の宝庫
更新日時:
紀北町
尾鷲市
熊野市
御浜町
紀宝町
海、山の恵みの多い東紀州は、ご当地寿司の宝庫。
その土地でよく食べられている郷土寿司が昔から存在していました。
魚一匹丸ごと使った「サンマ寿司」や「アジの姿寿司」、塩漬けの高菜で包んだ「めはり寿司」、木枠で押し固める彩り豊かな「押し寿司」。
また幻の渡利かきを甘辛く炊いた「かき寿司」に白板昆布で巻いた「こぶずし」やタチウオの「かしまいずし」といった、ほかの地域では味わえないものも。
それに酢を使わず乳酸発酵によって酸味を出す「なれずし」の文化も根付いています。
地域の人々の生活に深く根付いて、愛されてきた寿司をご紹介します。
▼目次
1 サンマ寿司[全域]
2 めはり寿司[全域]
3 押し寿司[紀北町・尾鷲市]
4 かき寿司[紀北町]
5 こぶずし[熊野・御浜・紀宝]
6 かしまいずし[御浜町]
7 アジの姿寿司[全域]
8 サンマのなれずし[熊野市]
1 サンマ寿司[全域]
正月など、親族が集まるハレの日のごちそうとして食べられていた「サンマ寿司」。
最近は各家庭で作る機会も減っているようですが、スーパーや道の駅などでも販売されています。
そんな東紀州でよく見かける郷土寿司ですが、一口に「サンマ寿司」といっても、背開きと腹開き、尾頭のあるなし、薬味がからしか柑橘系かなど、地域によって細かな違いがあるのです。
尾鷲市より北側では腹開きで押し寿司型。
熊野市より南側では背開きの巻き寿司型で、今ではかなり減っていますが尾頭付きもあります。
薬味は北の方では練りからし、南の方では橙やユズの合わせ酢にサンマを漬け込むため柑橘の爽やかな酸味がアクセント。
捌き方の違いは、一説によると熊野市には江戸時代、奥熊野代官所があったので、武士にとって切腹などを連想させる腹開きや頭を落とすことが避けられたのではないかと言われています。
また全国で食べられている「サンマ寿司」ですが、東紀州が発祥という説もあるのです。
熊野市にある「産田神社」は、イザナミノミコトが火の神カグツチノミコトを生んだ場所とされ、病弱であったカグツチが骨付きのサンマを食べて丈夫になったという謂れから「さんま寿司発祥の地」と伝わり、鳥居前に石柱も建てられています。
毎年1月10日の大祭「奉飯の儀」では、子どもが丈夫に成長することを願って、骨付きの「サンマ寿司」が振舞われています。
2 めはり寿司[全域]
もともとは、山や畑に出かける際、忙しい仕事の合間でも手軽に食べられるようにと作られたのが「めはり寿司」。
「目を見張るように大きな口を開けて食べる」「目を見張るほどおいしい」ことから名付けられたとされています。
塩漬けの高菜を刻んでご飯の中に入れ、大きな高菜で包むのが一般的。
刻み高菜の代わりに、梅干しやかつお節、鮭などを具にすることもあり十人十色。
素朴な高菜のおにぎは、一部の地域で日常的に作られている、いわばソウルフードのようなものです。
3 押し寿司[紀北町・尾鷲市]
紀北町から尾鷲市周辺で食べられている「押し寿司」は、酢でしめたサンマやアジのほか、ニンジン、シイタケ、ゴボウに卵など、具沢山で美しい彩り。
木枠の型の中に防腐作用のあるハナミョウガの葉を酢飯と交互に重ねていき、押し固めて作ります。
結納や結婚式、新生児の名付け、家の建前の時などにお膳の主役となり、段重ねで作られるため、よいことが重なるようにと祝いの席で好まれました。
「こけら寿司」と呼ばれることもありますが、劇場などの「こけら落とし」の席で出されていたこと、「こけらぶき」の屋根のように1枚ずつ重ねて具材を盛り付けることなどが、その名の由来と伝わっています。色とりどりの具をびっしりと載せ、食欲をそそる慶事のごちそうです。
4 かき寿司[紀北町]
紀北町にある白石湖は、熊野灘の海水と山からの淡水が混ざる栄養豊富な水質で、かきの養殖が行われています。小さな漁場で育てられるので、ほとんどが地元で消費される幻のかき。
小振りながらもクセのない旨みが特徴です。
そんな渡利かきを、みりん・砂糖・醤油で煮込んで甘辛く味付けし、すし飯にからしをつけていただくのが「かき寿司」です。
上品な旨みを堪能できます。
5 こぶずし[熊野市・御浜町・紀宝町]
熊野市から南牟婁郡一帯に伝わる昆布を使った巻き寿司は、正月や冠婚葬祭に欠かせない料理。
すし飯を包み込む黄金色の部分が昆布で、「よろこぶ」にかけて縁起が良い物とされ重宝しました。
良質の昆布の表面を削った「白板昆布」が使われ、これを少し柔らかく煮て、芯にニンジン、シイタケ、ゴボウなどの具を入れて、海苔巻きの要領で仕上げます。
昆布は北海道産ですが、昆布の採れない熊野になぜこの寿司が伝わってきたのか、説はいろいろ。
熊野水軍全盛の折、襲った交易船の積み荷の中にこの種の昆布があったとか、土佐にも同種のこぶ寿司があり、漁民の黒潮文化伝承の産物だという説もあるようです。
6 かしまいずし[御浜町]
東紀州の一部地域で、逆さまのことを「かしまい」というそうです。
タチウオの「かしまいずし」は、身を三枚に下ろし、皮をこそぎとって皮目を下にして押し寿司にすることから、この名前がついたとされる、身が逆さまの寿司。
できあがった寿司は白く端正なたたずまいで、上品な味。
淡泊な中にも歯ごたえもあり、甘酢の具合とあいまって、繊細。
クセのない味はみなに喜ばれ、建前や結婚式など祝いごとの席に作られてきました。
7 アジの姿寿司[全域]
夏が食べごろとされている、小アジ。
旬の小アジをつかった姿寿司は、全体が柔らかくなっているので、頭から丸ごと食べることができます。
新鮮な小アジが手に入ったら、背びれと腹びれを取り、頭をつけたまま開いて、酢に漬け込みます。
熊野では柑橘を合わせた酢を使うことが多く、さっぱりと臭みのない仕上がりです。
8 サンマのなれずし[熊野市、御浜町、紀宝町]
熊野川沿いの地域では、昭和30年代にダムができるまではたくさんの鮎がとれ、この鮎を使って、古くから「なれずし」がつくられていました。
しかし、ダムが建設以降、鮎がとれなくなったため、近年は、鮎に代わってサンマで「なれずし」を作るようになりました。
熊野灘で捕れた脂の抜けたサンマを開いて塩漬けし、20日間ほど置いてから、塩出しをし、にぎったご飯にサンマのせて、これを桶に並べて重ねます。
落し蓋をして重石をのせ、薄い塩水をはって、2週間~20日ほど発酵させてようやく出来上がり。
サンマの塩抜き加減と米の炊き具合、保存時の気温が味を大きく左右するため、同じ人が同じ味を作り出すのは難しいとされています。
なれずしには独特の匂いがあるので、食べなれない人は敬遠しますが、好きな人にはたまらない味です。